ベトナムでの原発建設計画中止と国家の安全保障
ベトナムにおいて伸びる電力需要を満たすために原発導入計画が策定され、第1期をロシア(2基)から第2期を日本(2基)から購入することで政府間合意が成立していた。しかし昨年(2016年)11月22日、ベトナム政府(実質的にはベトナム共産党)は中止を決定した。
2017年2月19日、日本ベトナム友好協会京都支部の理事会が開催された。そこでこの問題をどう見るかの議論をした。それぞれベトナムの政府、大学研究者などと独自の交流・接触をしている人々で、計画が明るみになって以降、ベトナム関係者に原発の危険性について説き、止めるべきであると語ってきた。
1)原発建設中止のベトナム政府(共産党)の公式見解は二点である、ベトナムの経済において従来の伸びが低下し、国家財政が厳しくなり、巨大な費用のかかる原発建設は無理となった。
2)経済成長の低下とかかわって電力需要が当初予測したほど伸びない中で、巨大な費用をかけて原発を作る必要がない。しかも原発の電力単価が当初予想の2倍近くとなり他の電力に比べても割高である と言うもので、原発の危険性を理由としたものではなかった。中止に伴う声明の中でも「経済的理由であり、なんら技術的な理由ではない」としている。
もちろん内部討議では福島やチェルノブイルの事も議論されていたと推察される。しかし中止理由を「原発は危険だから」と言えば、それを進め売り込んできた日本やロシアも危険と言うことになり公式には理由としていない。しかし中止が決まった後の党大会で原発を推進した書記長、そして首相も退任している。
3)表向きには出ていないので、日本ではほとんど報道されていないが安全保障の問題として中・露の問題がある。ベトナムは中国の行動に脅威を感じている。そのこともありロシアとの接触に力を入れてきた。ところが最近ロシアのプーチン大統領は中国の南沙諸島・西沙諸島での行為を支持するとの対応を明らかにするとともに、南シナ海で中、露海軍の合同演習を行った。つまりベトナムが脅威を感じている中国とロシアが軍事的にも連携行動を行っている下で、エネルギーの中心を中国と蜜月にあるロシアの原発に頼ることはできないと判断したのである。しかし対外的に「ロシアはダメで、日本は良い」とは言えない。そこでロシアだけではなく日本からも輸入しないことにした。国家の安全保障にとって軍事とエネルギー、そしてあえて言えば食料問題が重要であることが改めて明らかになったのである。日本も根本的に考えなければならない。
4)なおベトナムでは原発建設計画反対の市民運動は起こっていなかったが、台湾資本が建設中の大型製鉄所の工事現場から垂れ流した廃液が漁業に大打撃を与え漁民を中心に抗議行動が広がった。高度成長に伴う公害問題の発生に対する国民意識の変化・高揚についてベトナム政府としても考慮に入れざるを得なくなってきている。