ワールド・レポート その10

北朝鮮問題、重大な局面に、事実上核兵器保有国になることを黙認する事態になりかねない

マスコミは、北朝鮮の核と弾道ミサイルを巡って、今回(8月29日)のミサイル発射は当初に言っていたグアムへは飛ばさず、北海道沖へ発射したことを取り上げ、アメリカとの駆け引きで最悪の事態は避けられたなどと報道した。

しかし北朝鮮は、その直後の9月4日には広島・長崎に投下し原爆の3-4倍の規模の核爆発を実行した。この間の動向ではっきりしたことは、早ければここ数年の間に核兵器を搭載したミサイルがアメリカに届くようになることは間違いなさそうである。
それに対してアメリカがどうでるか、選択は①アメリカが北朝鮮への軍事攻撃によって核施・ミサイル施設を破壊する。しかしアメリカが奇襲攻撃をしても300-500あると推定される中・短距離のミサイルの半分を破壊できれば良い方で、残るミサイルによって韓国や米軍基地のある日本が反撃を受け少なくとも100万人以上の犠牲者を生むことが予測され、選択肢としては絶対に行うべきではない。②もう一つは、話し合いによる解決が言われている。その際、かつてオバマ大統領が「核の放棄が明確にされない限り話し合いには応じない」としていたこも意識して「無条件の話し合い」が言われている。
アメリカの外交・軍事責任者の談話を見るかぎりでは、それに近づいていた。しかし北朝鮮は今のところ無視し挑発行動を続けるとともに、「無条件」と言う条件は飲まないと思われる。北朝鮮にとっては①休戦状態の朝鮮戦争を終結させアメリカと平和条約を結ぶこと、何より②金正恩体制の継続の保障である。つまり第二世界大戦末期の天皇制政府と同じく「国体護持」の保障が最大の眼目である。そしてリビアのカダフィやイラクのフセインなどが核兵器を持たなかったためにアメリカなどによって殺されたことを最大の教訓としている。核兵器を搭載しアメリカまで届くミサイルを開発することによって金正恩体制の保障を実現しようとしている。「我々を倒そうと攻撃する場合は、アメリカに核兵器を落とす」という脅しである。この間の事態を見ていると残念ながらズルズルとそれが進んでいる。パキスタンなどと同じく事実上、北朝鮮の核兵器保有が黙認されることになりそうである。そういう事になれば、日本や韓国には「アメリカの核の傘」は通じなくなる。つまり北朝鮮による韓国などへの攻撃に対して、アメリカによる核兵器使用と言う脅しが通用しなくなる。「時すでに遅し」の難しい事態となりつつある。事態が進めば韓国や日本で「自衛のための核武装論」が大きくなる危険がある。
今となっては①平和条約の締結②金正恩体制の保障を提案しても、北朝鮮は核兵器を放棄しない可能性が高まっている。なぜなら「核を放棄したら、御破算にされる可能性がある」と北朝鮮が考える可能性が高いからである。大難題が迫っている。
ともかく現時点では経済封鎖を徹底しながらテーブルに付かせることであるが、カギと成る中国やロシアは国益から十分な協力は行わないだろう。中国は緩衝地帯を温存しておきたいとの思いから、石炭などの輸入は止めたとように見えるが、年間貿易量では20%余り増えている。ロシアは極東への影響力を求め貨物船の定期便の開始、鉄道の整備、出稼ぎ労働者の受け入れ増加などを進めている。新しい複雑で難しい事態である。
しかしこれだけ大きな問題であるにもかかわらず、国際的には中国やロシアだけではなく、相当沢山の国々が引き続き、貿易を含めて北朝鮮を支え続けている。ようやく国連の場でも問題になってきたが、中国による北朝鮮への石油輸出問題がある。北朝鮮は石炭は産出されるが石油はない、したがって石油を中国を通じて100%輸入している。石油を止めれば戦車や飛行機を動かせなくなるだけではなく、今最大の問題となっているロケットの発射もできない。この程度の事もやっていなかった。合わせて北朝鮮の外貨獲得の大きな分野は国家管理の下、多くの労働者を海外へ出稼ぎに行かせていることであるが、いまだに多くの国々が大量に受け入れている。マレーシアが国内の飛行場内で金正恩の兄・金正男が暗殺された時、当初は厳しく北朝鮮を批判していたが、腰砕けとなり容疑者とみられる複数の人物の北朝鮮への帰国を認め曖昧にした。その背景は首都であるクアラルンプールにおける3K労働を北朝鮮の出稼ぎ労働者に依存していることもあった。これはシベリアの森林伐採、モンゴルのウランバートルの土木工事などもそうである。
最大の経済支援国である中国に対しては、アメリカは中国最高幹部のアメリカでの隠し資産は詳しく掌握しているのであるから、それも示して「経済制裁を厳格に実施しないなら、公表するぞ」と迫ることも含めて本気で詰める必要があるが、アメリカは中国崩壊を望んでいず、多分やらないだろう。明らかに手詰まり状況ともいえる。この複雑で困難な状況は何か一つの手立てでは打開できなそうである。軍事襲撃以外の多様な手立てを取り追いつめる以外にはなさそうである。難しい。
ただ一部に言われているような、現時点で北朝鮮のほうから韓国や日本へ攻めることはあり得ない。そんなことをすればアメリカ・韓国・日本による反撃によって金正恩政権が崩壊するからである。にもかかわらず第二次世界大戦時のように自治体によって「机の下に」とか「安全な建物に入るように」とかバカげたことを言っての住民訓練をし、管理体制を強めようとしている。