活動レポート5~ オレンジ村(枯葉剤被害障害者対象総合施設)建設支援

活動レポート5~ オレンジ村(枯葉剤被害障害者対象総合施設)建設支援

 2017年10月、ベトナム枯葉剤協会ホーチミン支部のホン博士とタン医師が京都にやってこられてホーチミン市におけるオレンジ村建設の支援を訴えられた。

ベトナム戦争中、アメリカ軍は独立と自由を求めて闘う、南ベトナム解放民族戦線の闘いに手を焼き、1962年から1971年の約10年に渡り、ジャングルに潜むゲリラ部隊を炙り出すのと食料を奪うためにダイオキシン入りの枯葉剤を8000万ℓ散布した。この枯葉剤の被災者は約300万人と推計されている。それから50年以上の歳月がたった。しかし戦争が終わり帰還した兵士の子供に、結合双胴児として産まれたベト・ドク兄弟のような先天性欠損を持つ子供が15万人生まれたのはじめ、枯葉剤を浴びたことが原因と推定される障害者が約100万人いる。

ホン博士(ベト・ドク兄弟の元主治医で国会の副議長も務めた)はアメリカ政府と枯葉剤を作った農薬会社を相手取って裁判に訴えたが、2009年アメリカ最高裁で最終的に拒否された。枯葉剤を浴びたのはベトナム兵だけではなく、アメリカ兵、オートリラリア兵、韓国兵もいた。彼らもアメリカ政府と農薬会社を相手取って裁判に訴えたが退けられた。オーストラリア兵や韓国兵はアメリカの要請を受け彼らをベトナムに送った自国政府の責任を追及して裁判を起こし「傷痍軍人年金」という形で保障を受けた。アメリカ兵は農薬会社との裁判で和解金としての「年金」を受け取った。問題はベトナムであった、経済力・財政力の限界、そして300万人と言う被災者の多さから対応できなかった。

しかしドイモイ政策で豊かになってきたベトナムにおいても2006年から、わずかな額であるが少しつづ保障が出来るようになり、現在では「傷痍軍人年金」の形で約30万人に支給している。同じく2006年に枯葉剤被害軍人とその治療に当たってきた医師たちによってベトナム枯葉剤被害者協会が設立され、年金の改善や治療・リハビリなどを取り組んできた。そしてベトナムの主要都市に、被害者の治療・リハビリ・職業訓練・療育を総合的に行うオレンジ村を内外から寄付によって建設することにした。その第一号が2017年12月にハノイに建設された。引き続いてホーチミンに建設するために2017年10月にホン博士やタン医師が来日されたのである。藤本文郎氏(ベトちゃんドクちゃんの発達を願う会代表)のお宅で、藤本文郎氏、尾崎望氏(タイニン省において16年間、夏休みを利用して看護士・理学療法士とともに枯葉剤被災者の治療・リハビリに当たってきた)、鈴木元に支援を訴えられた。そこで翌月の2017年11月、オレンジ村支援日本委員会を顧問・藤本文郎、代表・尾崎望(後に、立命館大学教授・荒木穂積氏に変更)、事務局長・鈴木元で立ち上げた。

我々としてはお金や物ではなく、JICAの草の根技術協力などを活用してソフトの面で支援協力を出来る手立てを考えた。そのためベトナムの現在の実状を掌握するための現地の実状調査、ベトナム側からVAVAホーチミン支部会長のトォー氏をはじめとする代表団を招待した。そして枯葉剤被害の実状を日本人に知ってもらうためのシンポジウムを京都・大阪・神戸で開催する取り組みと合わせて、日本の様々な障害者共同作業所を訪問・見学しベトナムで実施する研修プログラムについての検討・協議を進めた。そのため募金を集めるとともにJICEの資金も活用し、合わせてベトナムの代表を三度招待し、よさのうみ福祉会障害者農場などを見学してもらった。そしてベトナム側と協議し、農業を通じて社会参加・自立を目指すとりくみをすすめる事にした。

そこでJICAの草の根技術協力に申請し2019年3月に採択された(2年間で1000万円を限度)。これに基づき、2019年10月、VAVA全国委員会会長・RIN氏の立ち合いの下、JICAハノイ事務所担当次長・小林龍太郎、VAVAホーチミン会長・THO、国際環境整備機構理事長・鈴木元の三者で合意書を交わした。

しかし実際には、ここからが大変であった。プロジェクトは農業技術者に知的・精神障害青年に農業を教えるにあたっての対応を教えること。ならびに就労に当たって起こりうる様々な事態に対して対応できるジョブトレーナー(医師・看護師・ヘルパー)等を養成することである。そのために彼らが障害青年ととともに農業実習を行える農地や作業できる建物がいる。そこでVAVAホーチミン支部がこのプログラムを行うことを認可したホーチミン人民委員会からオレンジ村建設予定地4.7haの内、1haを障害者農場用として貸与してもらうことにした。その横にVAVAホーチミン支部が所有している100㎡のプレハブを集合場所・作業所として借り受けた。外国のNGOである我々がベトナムで活動するためにはベトナム外務省からの活動許可を得なければならず、その許可を2020年7月に得た。この許可には代表である鈴木元が過去において犯罪を犯したことがない証明書を日本の外務省・警察庁を通じて京都府警から出してもらいベトナム政府へ提出した。

日本における支援の輪を広げるために2019年8月、それまでに支援カンパをしていただいた人々を中心にベトナムの調査・交流のために参加者をつのり関西・関東から80名が訪問した。その時、結成されたばかりの障害者4名による太鼓チーム「龍鼓」にも同行してもらい、ホーチミンオペラハウスで市の交響楽団と交流演奏会を行うとともに、障害者施設で演奏をおこなってもらって交流を深めた。

太鼓チーム「龍鼓」による熱演

太鼓チーム「龍鼓」による熱演

またこのツアーの関東の参加者を組織した旅行社「たびせん」社長・大西健一さんの尽力で長崎の被爆者・木村徳子さんに参加しもらい、世界で初めて被爆者と枯葉剤被災者のシンポジウムを開催した。

セミナー:人間の健康に枯葉剤と原爆の影響

セミナー:人間の健康に枯葉剤と原爆の影響

その後、2019年11月、日本原水協の代表団がベトナムを訪ねベトナム平和委員会と協議し、今後、継続して協力していくことが確認された。そして2021年の原水爆禁止世界大会において設けられた核兵器禁止と枯葉剤被害の特別分科会に私・鈴木元が招待され発言した。

このJICAプログラムを構想した時には路地物野菜の栽培を想定していた。ところがベトナム側の農業技術者から「ベトナムは亜熱帯地域で多様な野菜が廉価で出来るので、路地物野菜の栽培で障碍者が収入得るのは難しい」との判断が示され協議した。その結果、ホーチミン郊外で広がっている家庭菜園用の苗を種から育て販売する。知識層や中間層で需要が増えている水耕栽培による無農薬野菜の栽培・販売を重点とすることにし、そのための作業所・パイプハウスの建設を行うことにした。ところがJICAの草の根技術協力はソフト支援に限定されていて、これらの施設・設備ののために資金を使う事が出来ない。また障害青年を半年単位で研修する場合、手当を支給せずに確保できない。これらの資金は、我々がカンパを集めて提供しなければならない。そこで300万円を目標に募金を開始した。この記念誌が出来るころには目標が達成できるように取り組んでいる。なお本格的に水耕栽培による無農薬野菜を栽培して障害青年が自立できるようにするためには、相当な規模のパイプハウスの建設、生産物を運ぶトラック、障害青年の送迎用マイクロバスを確保しなけれぱならず、続いて外務省の無償支援事業(1000万円)を申請する予定にしている。

もう一つ重大な問題は、2000年年頭からコロナが世界的に大流行したことである。そのため当分、ベトナム・日本間の自由往来が出来なくなってしまった。そこでVAVAホーチミン支部と協議合意しJICAの許可を受け、オンライン(ZOOM)研修だけでも完結できるものにし、途中で自由往来が出来るようになれば研修団の来日、日本から指導者のベトナム訪問を行うことにした。これらのJICAハノイ・VAVAホーチミン・JICA関西(神戸)・京都を結んだ打ち合わせは、総てZOOMで行い技術的に問題はないことが確かめられた。

JICAプログラムは採択されるだけではなく、それに基づく実施契約書を交わさなければならない。そのために膨大で煩雑な書類の作成が必要で、2021年の8月9月は、それに大きなエネルギーを取られたが、ようやく2021年10月に調印し実施することになった。最後は「根負けしない粘り」であることを、改めて痛感した。最初の1カ月は研修プログラムの日程・講師・科目の調整にあたり、それから実際の研修が開始されることになる。またベトナム側において最初の3カ月で作業所の整備、パイプハウスの建設が行われる。2022年8月の原水爆禁止世界大会において1年間の実践報告が出来るように努めたい。

これらの取り組みの中で、鈴木元・荒木穂積の両名がベトナムへの国際協力で功績があったとして2018年7月に外務大臣(河野太郎)表彰を授与された。続いて2019年には宮城泰年氏が授与された。また2019年3月、ベトナム枯葉剤協会から招待を受け、長年にわたってベトナムの枯葉剤被害障害者に対して支援活動を行ってきたとして、日本人としてはじめて宮城泰年、藤本文郎(体調不良で欠席)、西村洋二、鈴木元の四名が表彰された。

なお2021年4月21日のアメリカ政府の発表によると、元のアメリカ軍基地に放置されている枯葉剤除染のために、アメリカが205億円出して10年かけて除染するとのことである。また枯葉剤が大量に散布された7つの省の生活改善のためにも動き出すようである。枯葉剤散布の爆撃機が飛び立った沖縄の米軍基地を持つ日本政府の積極的な行動が求められている。